エグゼクティブ・サマリー
- ロボット導入で揉める案件の大半は、技術的な失敗ではなく「誰が何をどこまでやるかを書かなかった」契約の空白から起きる。揉めてから読む契約書には、揉めている論点だけが書かれていない。
- ロボットはハード・ソフト・周辺設備・現場条件の四層で構成される。トラブルはこの層の境目で起き、境目に立つ責任者がいない案件は必ず停滞する。責任分界点は文章ではなく図と表で合意する。
- 検収基準を「正常に動作すること」と書いた契約は、検収基準がないのと同じである。対象物・サイクルタイム・成功率・測定方法・測定期間・不合格時の扱いまで決めて初めて検収条件になる。
- 稼働率SLAは分母と分子の定義が全てである。「稼働率99%」は、計画停止・段取り替え・現場都合の停止をどう数えるかで、実態としてまったく違う数字になる。
- 事故時の責任は契約書だけでは閉じない。安全設計・作業者教育・保険の三点を合わせて設計する。契約交渉より先に、誰が安全の最終責任を負う立場かを社内で確定させること。
「動かない」と言った瞬間に、話が噛み合わなくなる
稼働開始から数週間後、現場から「思ったように動かない」という声が上がる。発注側はベンダーに改修を求める。ベンダーは「仕様どおりに動いています」と答える。ここで初めて、双方が契約書を開く。
そして高い確率で、契約書にはその論点についての記載がない。
「思ったように動かない」の中身を分解すると、たいていは次のいずれかである。
- 想定していた対象物のばらつき(サイズ・色・汚れ・積み方)に対応できていない
- サイクルタイムは満たしているが、人が介在する前後工程を含めると期待した効果が出ない
- エラー停止の頻度が想定より高く、復旧に人が張り付いている
- 周辺設備(コンベア、架台、電源、ネットワーク)の取り合いが甘く、そこで止まる
- 現場の運用が前提と違った(品種が増えた、置き場が変わった、担当者が代わった)
どれもベンダーの技術力の問題ではない。発注時に言語化されなかった前提の問題である。契約と責任分界点の設計とは、この前提を、稼働前に、双方が同じ言葉で書き出す作業に他ならない。